「もうほんとうに嘘みたいだ…」
なにがそんなに楽しいのか仕切にふふふって笑う。
はーい。
ここに出来上がっちゃってる人がいまーす。
獄寺くんは俺の部屋のテーブルに突っ伏して、ふふふ、ふふふと笑う。
色白の顔のほっぺと目尻だけが赤い。
本日10月14日。
俺は二十歳になりました。
夕方家にやってきた獄寺くんは、当然のようにたくさんのアルコールを持参した。
それで晩御飯を食べた後に、俺の部屋で呑み始めたのだが。
さて。
酔い潰れたこの友人をどうしようか。
俺は思案に暮れた。
別に獄寺くんとお酒を呑んだのは、今日が初めてじゃない。
たまに山本も交えて三人で呑んだ。
獄寺くんも山本もおれよりアルコールを呑み慣れているみたいだった。
なのに今日の獄寺くんの酔いっぷりはなんなんだ。
「…それだけ嬉しかったのかなー」
何がって?
俺が二十歳になることが。
小さい頃は二十歳になると急に大人になるんだと思ったけど、なった今昨日と特に変わったことはない。
まぁ、獄寺くんは昔からちょっと変わってたからな。
わざわざ自分の誕生日を祝いに来てくれた獄寺くんを、例え主賓を置き去りに本人が酔い潰れていようとも、このまま放置するのも気が引けて、とにかくベットに寝かせようとした。
「ほら!獄寺くん!起きれる?俺のベットで休んでいいから」
「…ふふふ」
あー酔っ払いって面倒臭いなー。
山本なら軽々ベットまで連れていけるんだろうけど、俺には無理です。
ぐにゃぐにゃと軟体動物みたいになった獄寺くん脇に手を差し込んで、勢いを付けて持ち上げる。
お、案外できるじゃん!
獄寺くんは俺が思ったより軽くて、一気に立ち上がらせることができた。
よし、このままベットまで。
俺が体重移動をしたらぐにゃりと獄寺くんも着いてきて、俺は支えきれず尻餅をついた。
うわっ、なにこの体制!
獄寺くんは背中を俺に預けて寄り掛かり、俺は否応なしに背後から獄寺くんを抱きしめる形になった。
やばい。
傍目から見たら、俺が獄寺くんに背後から抱き着いてるように見えないか?
慌てて離れようと体を動かした俺に、やっぱり獄寺くんは着いてきてまるでブリッジをしようとしてるみたいなった。
い、イナバウワー?
居心地が悪かったのか、夢心地だった獄寺くんは目を開けて、バッチリ俺と目が合った。
「…信じらんねー」
えっ、なにがっ!?
焦る俺に獄寺くんは蕩けるように笑った。
嬉しくて嬉しくて仕方がないってみたいに、凄く幸せそうに。
「こんなに好きで全部捧げて捧げ尽くしてるのに、まだ足りないなんて」
まるで恋してるみたいだ。
獄寺くんは俺に寄り掛かり眠ってしまった。
俺は何故か熱い頬とやたらと煩い心臓に息も絶え絶えで、しばらく硬直して動けなかった。
酔っ払いの戯言と聞き流したらよかったのに。
そんなこと不可能で。
10月14日。
恋に墜とされた記念日。
次の日、目を覚ました獄寺くんは案の定なにも覚えていませんでした。